SCS評価制度★3のセルフチェックのやり方|83項目に◯✕をつけたら悲惨だった話【第3話】

第3話:現状把握という名の宝探し — セルフチェックで見えた「うちの点数」
連載「社員8人の町工場、SCS評価制度★4への道」第3話
この記事でわかること
- SCS★3の現状把握は、評価基準83項目にそのまま◯△✕をつけるのが最短ルート。特別なツールは要りません
- 中小企業が最初につまずくのは技術項目ではなく、「やっているのに記録がない」文書・記録系の項目です
- 現状把握の成果物は「◯✕の数」ではなくギャップ一覧表。これが以後の全作業の設計図になります
前回までのあらすじ
担当者1名(わたし)+決裁者1名(社長)のミニマム体制が発足。週15分の月曜ミーティングも始まった。次はいよいよ、評価基準83項目にうちの現状をぶつける番だ。(第2話はこちら)
83項目、正直に◯✕をつけてみた
火曜の午後、電話番の合間に83項目のチェックを始めた。ルールは1つだけ。「見栄を張らない」。
「ウイルス対策ソフトを導入しているか」——◯。これは自信がある。全PCに入っている。
「重要な情報のバックアップを定期的に取得しているか」——◯……いや、待て。取得している「はず」だ。工場の隅のNASに。最後に中身を見たのはいつだっけ。……△にしておこう(この△が後に大事件になるのだが、それは第7話で)。
「退職者のアカウントを速やかに削除しているか」——去年辞めた山口さんのメールアドレス、まだ生きてる気がする。✕。
「セキュリティに関する規程・ルールを文書化しているか」——文書? あるとすれば社長の頭の中に。✕。
途中、工場のベテラン・岩田さんが事務所にお茶を飲みに来た。
「なんだ青井ちゃん、難しい顔して。……セキュリティ? ウチには盗られるもんなんかないよ、ハハハ」
「岩田さん、うちの図面と取引先の発注データ、全部このパソコンに入ってますよ」
「……盗られたら困るな」
「でしょう」
3日かけて出た結果:◯28、△17、✕38。83点満点でいえば、たぶん30点前後。
月曜ミーティングで社長に見せたら、しばらく無言だった。でもわたしは、意外と落ち込んでいなかった。だって、どこを直せばいいかが、初めて全部見えたのだから。宝探しの地図が手に入った気分だった。宝が38個も埋まっている地図が。
SCS★3のセルフチェックはどう進めればいい?
答え:評価基準83項目の一覧に、担当者がまず一人で◯△✕をつけ、わからない項目だけ現場に聞く。この順番が最速です。
進め方のコツは3つあります。
- ◯△✕の3段階にする:「やっている(証拠もある)=◯」「やっているつもり・一部だけ=△」「やっていない・わからない=✕」。この△が宝の山で、あとで最優先の点検対象になります
- 1項目5分で打ち切る:悩む項目は△をつけて先へ。83項目を1周する勢いのほうが大事です(うちは実働3日でした)
- 現場ヒアリングは後から最小限に:全員を会議室に集める必要はありません。わたしは岩田さんのお茶の時間に3項目聞いただけです
10人未満の会社が最初につまずく項目はどこか?
答え:技術系の項目ではなく、「文書化」「記録」「手順」系の項目です。
うちの✕38個を分類したら、こうなりました。
| 分類 | ✕の数 | 例 |
|---|---|---|
| 文書・記録・手順がない | 19 | 規程がない、教育の記録がない、対応手順がない |
| 運用が止まっている・徹底されていない | 11 | 退職者アカウント、更新の放置、共有パスワード |
| ツール・設備が足りない | 8 | バックアップ体制、ログの保存 |
半分は「お金のかからない✕」だったのです。文書と記録は、書けば埋まる。これは中小企業に共通する傾向のようで、「★3はお金より先に、まず手を動かす制度」と言われる理由がここにあります。
「できているつもり」と「証拠が残っている」の違いとは?
答え:★3で問われるのは「やっているか」ではなく「やっていると第三者に示せるか」。この差を埋めるのが現状把握の本当の目的です。
第1話で書いたとおり、★3は専門家が確認して署名する制度です。専門家は善意では署名してくれません。ルール(文書)・ツール(設定)・エビデンス(記録)の三点で示せて初めて◯になります。「ウイルス対策ソフトは入っている(ツール◯)、でも定義更新の確認は誰の仕事か決まっていない(ルール✕)、確認した記録もない(エビデンス✕)」——これが△の正体です。
ギャップ一覧表のつくり方
現状把握の成果物として、Excelで次の4列の表をつくりました。以後★3取得までの全作業は、この表を上から潰していくだけになります。
| 列 | 書くこと |
|---|---|
| 項目 | 評価基準の番号と内容 |
| 現状 | ◯△✕と、実態のメモ(正直に) |
| やること | ✕→◯にするための具体的な作業 |
| 分類 | 「書けば済む/運用を変える/お金がかかる」の3分類 |
「お金がかかる」に分類されたのは83項目中わずか8項目。月曜ミーティングで社長に「まず無料の75項目からやります」と報告したら、目に見えて安心していた。
現状把握フェーズのチェックリスト
- [ ] 評価基準83項目に◯△✕をつける(見栄を張らない・1項目5分・実働1週間以内)
- [ ] △と✕を「書けば済む/運用を変える/お金がかかる」に分類する
- [ ] ギャップ一覧表(4列)にまとめる
- [ ] 経営者に結果を報告し、「お金がかかる項目」の予算感を共有する
- [ ] この時点ではまだ何も買わない
よくある質問(FAQ)
Q1. セルフチェックで✕が多いと、取引先に知られて不利になりませんか?
A. なりません。セルフチェックは社内の現状把握であり、公表するものではありません。★を申請するのは対策を整えた後です。むしろ現状を甘く採点すると、後の専門家確認(第9話)で不備が発覚してやり直しになるほうが痛手です。
Q2. 現状把握にはどれくらい時間がかかりますか?
A. うちは83項目の1周に実働3日、分類と一覧表づくりに2日、計1週間ほどでした。兼務でも1カ月あれば十分終わる作業量です。
Q3. 専門用語がわからず◯✕の判断がつかない項目はどうすれば?
A. 迷わず△をつけて、用語をメモしておいてください。第2話でつくった「わからない用語リスト」と合わせて、後で専門家や支援窓口に聞く材料になります。判断がつかない項目で止まるのが一番もったいないです。
次回予告
ギャップ一覧の最優先は、✕のなかでも一番ゾッとした「アカウントとパスワード」。全員共有のID、生きている退職者アカウント、そしてモニタに貼られた「PW:1234」の付箋——。
第4話「パスワード『1234』の衝撃 — アカウント管理と認証の立て直し」につづく。
本連載は実在の制度(SCS評価制度)に基づくフィクションです。制度は2026年度に開始された新しい制度であり、要求事項・評価基準等は今後改訂される可能性があります。最新情報は必ずIPAの一次情報をご確認ください。

